オーロラはどこに降る?

天体の動きが高精度に予測できる現代、オーロラという現象は、たとえば天気予報のように予測できるのでしょうか? また南極や北極などの高緯度な地域で、しかも夜だけに見られるオーロラは、私たちの生活にいったいどんな関係があるのでしょう?──今回採り上げるのは「データ同化」の手法を採り入れ、オーロラ現象解明と同時に、生活に役立つ知見を目指す研究です。「データ同化・シミュレーション支援技術」プロジェクトの第3回目は、国立極地研究所との人材交流から生まれた、才田聡子特任研究員(統計数理研究所)の研究をご紹介します。

オーロラという現象を計算で再現する

上の写真は、地球の磁気圏を磁気流体力学方程式で解いたシミュレーションを表しています。地球と太陽の重力が釣り合う「ラグランジュ点」を周回する衛星が、太陽風のプラズマの密度等を観測しており、これを入力してコンピュータに計算させるとこのような図を描くことができます。太陽から地球へ、「太陽風」と呼ばれる高エネルギーで高速のプラズマが押し寄せています。緑〜赤色で表されている帯状のものは、このプラズマがどのくらいの強さで地球の磁気圏に当たっているかの圧力を示しており、たくさんの線で描かれているのは、地球がつくる磁場の様子です。地球は、その内部にある核が自転の影響を受けながら熱対流することにより、コイルに電流を流したときのように磁場がつくられます。プラズマは磁力線を横切ることができない性質を持っているため、地球を直撃することなく、はね返されているのです。

太陽からのプラズマが降り込む夜

ところで地球の磁場は、南から出て北へ向かっています。太陽風の磁場も同じ方向を向いているときはよいのですが、もし逆向きになって太陽風の磁力線と地球の磁力線が接近すると磁場の拡散が起こり、2つの磁力線がつながる「磁気リコネクション」という現象が起こります。すると地球の磁力線は太陽風と一緒に流されて、夜側にひっぱられてしまいます。夜側に引っ張られた南半球から出る磁力線と北半球に入る磁力線はお互いに逆の方向を向いているので、ここでもう一度「磁気リコネクション」が起こります。すると太陽風の中にあったプラズマが地球の磁力線に乗り、磁力線に沿ってそのまま南極や北極に降り込んでくるのです。この時、プラズマと衝突した大気中の原子や分子が「励起状態」になり、酸素なら緑色や赤色、窒素ならピンク色というように特定の色を帯びながら、「電離層」と呼ばれる地上から100キロメートルぐらいの領域で光るのがオーロラです。オーロラの発生しやすい領域は地球の磁極を囲むように楕円形になっていて、オーロラオーバルと呼ばれています。

地球データはピンポイントデータ

私は統数研に来る前は極地研に所属しており、実は南極で磁気測定のための観測器を設置した経験があります。オーロラを研究するようになったのは2007年頃からですが、この現象には太陽と地球の関係すべてが含まれているといってもよく、オーロラをみることは、宇宙環境の変動をみることでもあります。このような超高層域の大気を対象とした分野は「超高層物理学」と呼ばれ、物理学的なモデルづくりが行われていますが、必ずしも現実を反映しきれない面がある。というのも、地球物理のデータは場所も時間も、非常に限られたものなんですね。人工衛星が観測できるのは、この広大な宇宙の空間的にも時間的にも、ある1点に過ぎません。そこで統計的な手法を使うと、限りあるデータから全体を考える、大きな手掛かりになるんですね。今までの私の研究では、その時点その場所での現象についてしか言えなかったことが、データのない別の場所で起きている現象についても議論ができるようになるのです。

地上の暮らしに役立つシミュレーションを

しかもオーロラの位置は地上から観測することができるので、シミュレーションの値を現実に近づけることができます。たとえば2011年には、オーロラが経度方向に大きく移動する様子をシミュレーションによって再現し、南極の昭和基地とアイスランドで観測されたオーロラの形の違いを説明することができました(研究成果論文はこちら)。現在は特に、磁気圏と電離圏の境界の計算をもっと正確に行うために、電離圏の観測データをシミュレーションに合わせるデータ同化を進めています。ただ、オーロラがどこに出るかがわかっただけではまだまだ、です。せっかくデータ同化を使うならば、磁気圏と電離圏の間でどんなふうに物理量が交わされていて、どんな過程を経て、どんな関係式が成り立つのか、リアルに近づけて描きたい。実際、太陽風は生命に有害であるだけでなく、人工衛星を破壊することもあるため、日常的に使っている通信が途絶えたり、大規模な電力会社の変圧計が故障したりといった悪影響も十分考えられます。どのくらいの強さの電流がどう電離層に流れているのか、もっと定量的に見積もって、影響が論じられるところまで到達したいと考えています。

そもそもデータ同化とは?

スクリーン左の赤い半球が、地球の「昼」側。地球の磁場によっていったん遠ざけられた太陽風が、手で示しているあたりで「磁気リコネクション」によって、ふたたび地球の「夜」側へ降り込んでくる。

(文:才田聡子・池谷瑠絵 写真:水谷充 公開日:2014/06/10)