データ同化・シミュレーション支援技術 シミュレーションと大量データ解析を高度に一体化します。

研究概要

成果概要

「ビッグデータ」時代においては、単なるデータ量の増加のみならず、まったく異なるタイプのデータを扱わなくてはならない点が特徴的です。シミュレーションと大量データ解析を両輪とする学問体系の確立は、各々の科学分野における長年の夢であり、その波及効果はシミュレーションを用いるあらゆる分野に及びます。

そこで本プロジェクトでは、シミュレーションとデータ解析の作業を一体化する手法の高度化と一般化を目標に、地球科学と生命科学における具体的な問題解決に向けた共同研究を通して、データ同化手法のさまざまな分野への適用拡大を図ります。(プロジェクトディレクター:中野純司 [統計数理研究所])

プロジェクトの目的

地球科学においては、地球の磁気圏と呼ばれる領域において、シミュレーションモデルと観測データの同化実験を行い、オーロラの再現に挑戦します。南極大型大気レーダー(略称:PANSY)プロジェクトのデータ処理を題材として、観測現場でリアルタイムに得られる高速、高分解能、多次元データの問題について研究します。生命科学においては、データ同化手法を発生細胞生物学分野の問題(ほ乳類の体節形成、精子形成および動物細胞の分裂、細胞質流動)に適用し、同分野における有力な手法として確立することを目指します。

これらの共同研究を通して、順問題的に課題を解決するだけでなく、データから理論に遡る、まさに逆問題解決のセンスも兼ね備えた、新しいタイプの研究者養成を目指します。

プロジェクト推進体制

以下の3つのチーム編成により、相互に連携し合いながら、研究を推進します。

数理・計算チーム

階層的シミュレーションへのデータ同化法の適用を主目的とした研究を推進します。レイヤごとに最適な逐次ベイズフィルタを採用したハイブリッドデータ同化アルゴリズムを開発し、現実的な計算時間での階層的シミュレーションへデータ同化の適用を目指します。また、センサーデータやソーシャルネットワークにおけるトラフィックのような、リアルタイムに入力される大規模データを逐次同化するためのアルゴリズム、ならびにハイ・パフォーマンス・コンピューティングをフルに活用するためのプログラム開発を実施します。

モデリングチーム

極地研が所有するSupderDARNデータから得られる電離圏電位分布をデータ同化に用いて、グローバルMHDシミュレーションモデルの境界パラメータに対する、電離圏電位分布・磁気圏対流の変化を確認します。局所的な物理量絶対値の比較ではなく、電離圏電位分布に見られる対流セルの形状パターンについて比較することで、境界パラメータの変化に対するモデルと観測値との類似性を検証します。データ同化の実験を通してシミュレーションの内部境界(磁気圏ー電離圏境界)におけるモデルパラメータの最適値を推定します。大気レーダーについて、これまで観測実験に用いて来たMUレーダー(滋賀県)に加えて、南極昭和基地大型大気レーダー(PANSY)も使用し、それぞれの観測対象やシステムの特殊要因も取り込んだ汎用的な理論、手法を構築します。また、多チャンネル信号処理による推定アルゴリズムとスムーザーとの融合をはかるなど、最適な物理量推定法の構築に努めます。

データデザインチーム

マウスを用いた体節形成に関する解析は、遺伝研の実験グループとモデルグループが、密に連携を取りながら研究を進めます。また生殖細胞のRNA制御機構研究は、遺伝研と統数研のグループが、特に研究手法や解析法に関して協力し、研究を推進します。線虫初期胚の細胞質流動は、統数研の計算機環境等を利用しながら、遺伝研と統数研の連携の下に研究推進します。

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