社会コミュニケーション 現代の複雑なシステムの問題を見据え、人間・社会科学と融合した新手法を創成します。

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研究概要

成果概要

ビッグデータ時代を迎え、これまでとは桁違いに多様で大規模なデータ、テキスト、音声、画像、映像などのWeb情報を集積することができるようになりました。その一方で今世界は、地球環境の保護(CO2削減)やウイルスへの脅威、医療・健康、持続的発展可能な社会経済、食料・エネルギー、"安全・安心な"社会など、さまざまな問題に直面しています。本プロジェクトは、これらの複雑なシステムの問題を見据え、データを活かす情報システム技術と、人間・社会科学を融合させた、新しい学問領域の科学的研究手法の創成を目指しています。

本プロジェクト「社会コミュニケーション(コミュニケーション情報学)」では、現実の物理的社会(Real)と爆発的に増加するWeb情報空間(Cyber)が融合した社会において、人間・社会データ計測技術により、コンピュータなどの情報機器だけでなく、現実社会のありとあらゆるモノをWeb空間に投影し、Web空間から現実社会を制御する「Cyber-Real-Control技術」を研究開発します。さらに、現実社会をWeb空間でシミュレーションするだけでなく、Web空間から人やモノの操作を行い、現実社会にフィードバックすることで、今までにない新たな価値を生み出だす人間・社会の知の循環基盤を実現します。なお、データベース「人間・社会データ」との有機的連携により推進します。(プロジェクトディレクター:曽根原登〔国立情報学研究所〕)

サイバー・フィジカル融合社会とビッグデータ駆動社会システム

プロジェクトの目的

現実の人間・社会の情報をWeb空間に投影し、Web空間でモデリングとシミュレーションを行い、Web空間から人やモノにフィードバックすることで、新たな価値を生み出だす「知の循環」基盤の実現を目指しています。さらに、現実社会から収集される人間・社会の大規模データとそのモデリングに関する知識を「人間・社会データ共同利用・共同研究基盤」として社会実装し、共有化することにより、情報システム科学を活用した人間・社会のイノベーションを牽引します。これらを通じて、新たな学問分野としての「データ中心人間・社会科学」の創成に挑戦します。

プロジェクト推進体制

プロジェクトには、大きく2つのテーマがあります。まず「Web/SNS ライフログ駆動の政策決定支援システム」には、サブテーマ1・2が含まれ、研究代表者:曽根原登〔情報研〕を中心に推進します。次に「政策科学・経営科学に資する意思決定・コミュニケーションプロセス」には、サブテーマ3・4・5が含まれ、研究代表者:椿広計〔統数研〕を中心に推進します。

国立情報学研究所と統計数理研究所を中心とし、全国の29大学(東京大学、大阪大学、同志社大学、広島大学、高知大学、東京学芸大学、和歌山県立医科大学、慶應義塾大学、電気通信大学、九州大学など)と連携します。また災害に学ぶ重要な人間・社会データの分析や収集・管理・共有の方法を確立するため、東日本大震災の被災地の4大学(東北大学、石巻専修大学など)や地方公共団体9機関との連携を強化しています。さらに、観光、防災・減災、環境政策科学においては、地域の政策主体である自治体(仙台市、京都市、広島県・広島市、山梨県、高知県など)および産業界と連携し、産官学連携によるデータ中心政策決定支援サービスの社会実装を実施します。

サブテーマ紹介

1. Web/SNSデータ駆動の観光・防災政策科学の研究

地域の政策実行主体である自治体や、観光協会や商工会議所などの事業者が、科学的根拠データに基づいた合理的な観光政策や観光産業活性化を支援するシステムを研究します。従来の社会データ調査方法は、日ごとの宿泊施設利用データの収集ができないため、複数のWebサイトから横断的にデータを収集し、サイトごとに偏りのあるデータを統合することで、実世界の宿泊施設利用状況を把握するしくみを開発します。また、Web空間のデータの信頼性が不明という問題に対応するため、収集したデータを分析・合成して、観光統計データと比較する方法を検討し、Web予約データの信頼性を評価可能にします。

これによって全国の自治体に適用可能な「Webデータ駆動の観光政策決定支援システム」を提供し、観光関連産業での機会損失やイベント開催による経済効果の推定、プライシングによるデマンドコントール方法を確立します。

また東日本大震災の経験から、緊急時にのみに稼働する専用システムが、多くの場合、実際の緊急時に役に立たないことが明らかとなりました。そのため、平常時にも利用でき、緊急時には災害対応できる情報システムとして「情報システムの常用性」を確保するサービス科学についても研究を推進します。

<具体的な成果例>

2. データ駆動型学習支援:個に最適化した学習支援サイバー学習空間の研究

ネット社会の進展とともに、教育分野においてもICT利用が進み、eラーニング、電子教科書、LMS(Learning Management System)、CMS(Course Management System)、オンライン教育などの試みが盛んになっています。貴重な情報を含むこのようなさまざまな教育関連データは、情報空間上に大量に蓄積することができるものの、その種類や活用法については、いまだ体系的に研究されていません。

一方、これまでの教育は基本的に集団を対象とし、また標準的な学習者を想定して行われてきました。個々の学習者が異なった学習特性を能力を持っていることはもちろんですが、個に即した学習支援を行うことは困難であり、近年はさらに学校外における学習機会の増加に伴って、教員が生徒の学習状況を把握することはますます難しくなっています。

そこで本サブテーマでは、Webテストで得られた学習・評価(テスト)データを認知診断モデルにもとづいて分析し、個々人の学習プロセス・成果を推定する研究を行います。同時に、データマイニング・可視化手法などを駆使して、情報空間上に大量に蓄積される学習活動にかかわるデータ(学習ライフログ)の中から、学習者の特性や学習スタイル、進度、学習者間コミュニケーションなど、学習改善に資する情報を抽出する方法に注目します。認知診断テストと学習ライフログの両方から得られる結果を融合させることで、学習者個々人のニーズ、学習特性、学習状況に合わせて最適化した学習支援の方法を研究し、確立していきます。(1・2研究代表者:曽根原登〔情報研〕)

<具体的な成果例>

3. 意思決定・コミュニケーションプロセスに関わる情報循環の高度化と標準化

事象の不確実性や人間行動の不確定性を配慮して、政策、投資、スポーツ・ビジネスゲームなどの効率的かつ頑健なシナリオ決定プロセス、および集団間コミュニケーションに関わる決定理論について、数理的基礎研究及び応用研究を推進します。また統計数理科学だけでなくファジー理論、金融工学など多様な分野の研究者との共同研究により推進します。さらに、政策を含むサービスの開発を加速する統計的方法、ないしは関連管理技術の枠組みの中で活用可能な方法論の蓄積をはかります。

わが国が幹事国を務め、代表者が委員長を務めるISO TC69 SC8における意思決定支援プロセスの標準化(ISO 16355「製品・サービス開発を加速する統計的方法と関連技法」規格の第1部から第8部)を米国、ドイツの研究者、英国、南アフリカ統計局の実務家などと共同で起案し、国際標準化作業を進めます。

4. 自殺予防対策等に関する独自統計整備と予防政策支援

国立精神・神経医療研究センターと共に、内閣府の自殺統計作成に協力し、関連して自殺統計データのモデリングに関する慶應義塾大学、和歌山県立医科大学などとの共同研究を推進します。このため、さまざまな分野の自殺研究者を横断する国内外の共同研究集会を継続主催します。さらに内閣府自殺予防センターが立案する政策、ならびにその評価に資するわが国における自殺要因の可視化作業などを進めます。

5. 安全規準など策定のための数理的方法整備とその食品安全分野などへの実装

食品安全基準、環境基準の策定の基礎となる数理的リスク管理技術を整備すると共に、特性値の測定の不確かさ、特性値の重篤なエンドポイントへの量反応関係を勘案した俯瞰的リスク管理政策決定様式についての研究を推進します。社会実装に向けた活動を食品・環境分野で実施します。(3・4・5研究代表者:椿広計〔統数研〕)

<具体的な成果例>

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