研究概要
氷床コアからの古環境復元は、地球の過去・現在・未来を知るための鍵であると言われています。それは、過去の地球環境を復元するだけにとどまらず、現在われわれの置かれている状況の正しい理解、さらには将来の地球環境がどうなってゆくのかを予測する際に不可欠な情報を与えてくれます。
南極やグリーンランドに存在する氷床からのコア・サンプルの解析には新しい技術が次々に投入され、幅広い環境情報が高い分解能で得られつつあります。そして近年、これまで無生物であると思われていた氷床中に、大気中を浮遊していた微生物が雪とともに封じ込められていることが明らかになってきました。これは、これまでの物理・化学的な情報に新たに加わった、生物的な古環境情報といえます。
氷床コアから復元可能な歴史の長さは約100万年であるとされており、ちょうど直立猿人から現代までをカバーするスケールに当たります。
このことから、氷床コアに含まれる微生物の変遷には、人類の進化や活動に関わる情報が含まれている可能性があるということができます。氷床コアから読み取る環境変動史に生物変遷史を加えることで、人類の時代における地球生命システムを理解する道を拓くことを目指します。(プロジェクトディレクター:本山秀明〔国立極地研究所〕)
プロジェクトの目的
地球環境は地球上の気水圏、地圏、生物圏、そして人間圏の相互のバランスの上で形成されてきた。地球環境変動と現代への影響を地球生命システムとの関わりの上で解明することを目的とします。
これまでの遺伝子解析で得られた微生物多様性のデータを、氷床コア情報から得られた氷期、間氷期を含む気候変動と照合し、地球環境変動と微生物の進化・多様化の相互作用を理解します。氷床コアから読みとる100万年にわたる環境変動下での生命の適応戦略のメカニズムを明らかにし、地球生命システム学の構築を目指します。このため本プロジェクトでは、南極、グリーンランド、中央アジア等の環境の変動が大きい極域を中心に、環境データの取得と微生物相の変動などについて研究を推進します。
プロジェクト推進体制
4研究所が連携して研究を進めるほかに、北海道大学、筑波大学、千葉大、東京大学、日本海洋技術研究機構(JAMSTEC)、東京工業大学、玉川大学、京都大学、京都府立大学、広島大学等と連携して研究を行っています。また極地研はドームふじ氷床コア・コンソーシアム(ICC)、付属施設である南極昭和基地、北極スバールバル、日本ニーオルスン基地の利用をはじめ、北海道大学低温科学研究所、北見工業大学、JAMSTEC、アラスカ大学国際北極研究センターと共同研究を目的にMOUを交わしており、プロジェクトの推進に不可欠な国内外の研究体制が整備されています。
サブプロジェクト紹介
1. 氷河、氷床コアに見る地球環境の変遷と生物の変動、人間圏との関わり
氷河、氷床のコア解析による地球環境変動の復元、アイスコア中の微生物・ウイルスなどの環境変動への対応や進化メカニズムの時系列解明等の研究課題を遂行します。細胞濃度が極めて低く難培養微生物がほとんどである氷床コア微生物の研究において、1細胞遺伝子解析を軸に研究を行う。アイスコアから時系列的にウイルスを検出し、人間圏との関わりを明らかにすることに挑みます。(研究代表者:本山秀明〔極地研〕)
2. 極限環境における生物多様性とそのパターン
南極沿岸域の氷床、氷河、湖沼生態系から見た地球環境の変遷およびそこに見られる極限生物の多様性と分布パターンの解明を行います。また沿岸域の氷床末端、氷床上、氷床下などの境界領域を、氷床を取り巻く自由水環境と位置づけ、そこに存在する新規生物圏を探索します。同時に、極限生物の分類・分布・遺伝子等に関する総合的なデータベースの構築を目指します。(研究代表者:伊村 智〔極地研〕)
3. 極限生物の環境適応メカニズムと進化
極限微生物の多様性と環境への適応メカニズムおよび進化プロセスの解明を行う。メタゲノム解析、ゲノム解析、一細胞からの遺伝子解析等の幅広い手法を応用し、堆積物や氷床コア中の微生物生態系解析を行います。特に機能遺伝子解析からの生態系内物質代謝メカニズムの解明、環境耐性遺伝子からの適応機構の解明を目指します。(研究代表者:仁木宏典〔遺伝研〕)
Research View 023
赤道直下の氷河で見つかった新しい生態系。
[地球・環境システム]植竹淳(国立極地研究所・特任研究員)
Research View 012
極限環境に生きる「コケ坊主」のすべて。
[地球・環境システム]伊村智(国立極地研究所・教授)
Research View 004
南極に積もる雪から、太古の生命と環境を削り出す。
[地球・環境システム]本山秀明(国立極地研究所・教授)