イメージデータ解析 複雑な現象のイメージデータを高度に解析する技術をつくります。

研究概要

成果概要

生物では、近年の細胞・分子イメージング技術の発展を受け、バイオインフォマティクスの新しい分野として、バイオイメージ・インフォマティクスの研究が急速に活発化しています。また医療では、医用画像処理はたいへんニーズの高い技術でありながら、統計数理の手法が十分に浸透していない現状があります。また人間・社会に目を向ければ、近年、社会の個人化・孤立化が進み、また経済不況が続くなか、一人暮らしの老人やストレスを抱える人々など、ケアを必要とする人が急増しています。

本プロジェクトでは、医療・生物や人間・社会に関する4つの分野で実際に生み出されたイメージデータを取り扱い、これらを高度解析する技術を研究開発します。さらにその成果を、さまざまな問題に適用できる汎用的なイメージデータ解析ツールとして公開し、各研究分野の学術的発展にも貢献していきます。(プロジェクトディレクター:松井知子〔統計数理研究所〕)

サブテーマ1より「SPF-CellTracker」
サブテーマ4より「Monte Carlo Dynamic Classifier」

プロジェクトの目的

最先端科学分野における複雑な現象を視覚的に表し、そのイメージデータを統計的手法を用いて高度に解析して、様々な意思決定支援に役立てる基盤技術の確立を目指します。バイオイメージングデータ(カルシウムイメージングデータなど)、医用画像データ、人や物の映像データなどのイメージデータのコーディング技術のノウハウを蓄積し、汎用的なイメージデータの高度解析技術を研究開発していきます。

プロジェクト推進体制

本プロジェクトの基本的な方針は以下の通りです。

  1. 医療、人間・社会関連の実イメージデータを扱う。
  2. サブテーマごとに具体的なタスクを設定し、そのタスクへの取り組みを通じて、それぞれにコーディング技術のノウハウを蓄積し、イメージデータ解析技術を研究開発する。
  3. 上記2で得たノウハウ、およびイメージデータ解析技術の汎用化をはかる。

特にサブテーマ1、2、4では次の考えに沿って研究を推進します。

サブテーマ1:線虫神経系のカルシウムイメージングデータを主な研究対象として、画像情報からの特徴抽出、分画、登録、分類、可視化など、バイオイメージ・インフォマティクスの幅広い研究課題に取り組み、当該分野における汎用的方法論の構築を目指します。

サブテーマ2:脳機能計測において得られたデータには計測システムの原理的な問題に起因する強い背景トレンドや定常、非定常のアーチファクトが重畳しており、基本的な統計的手法である相互相関解析、回帰分析などの適用を行うためにも相当なデータの事前処理が要求さます。事前処理からその後の解析のすべてのプロセスが理詰めで完了することは希で、かなりの試行錯誤と経験則が必要なため、実験家との緊密な連携とフィードバックを常に保ちつつ研究を推進します。

サブテーマ4:研究開発したイメージデータ解析技術は、イメージデータを扱う医療、人間社会をはじめとする幅広い分野で利用できるように汎用ツール化して公開します。

サブテーマ紹介

1. バイオイメージング・インフォーマティクス(医療・生物関連)

細胞・分子イメージングなど、主に3次元動画から成るバイオイメージングデータから、オブジェクトの位置を自動検出し、個数を数え上げ、物体追跡、レジストレーション・イメージマッチングを行う統計的手法を開発します。さらに、画像情報からの特徴抽出、分画、登録、分類、可視化など、バイオイメージング・インフォマティクスの幅広い研究課題に取り組み、当該分野における汎用的方法論の構築を目指します。(研究代表者:吉田亮〔統数研〕)

2. オプティカルイメージングデータを用いた脳の動作原理の解明(医療・生物関連)

神経細胞やアストロサイトのミクロな活動は、カルシウムイメージングデータを用いて計測することが可能であり、脳のマクロな活動は近赤外線スペクトロスコピーで計測することができます。いずれの方法もオプティカルイメージング法に分類され、共通した時空間構造を持ちます。本研究では、背景ドリフト成分の除去法、より効率的で客観的な神経賦活の検出方法、ならびに神経賦活の空間伝搬メカニズムの推定するためのアルゴリズムを開発します。(研究代表者:三分一史和〔統数研〕)

3. 医用画像処理における統計的手法に関する研究(医療・生物関連)

計算解剖学を含む医用画像処理における既存方法に対し、スパースモデリングなどの統計科学の貢献による高精度化、処理の高速化の可能性を探り、未来の医療応用を目指します。(研究代表者:池田思朗〔統数研〕)

4. 人間・社会の視覚情報データ解析(人間・社会関連)

人間・社会の人や物の映像データから、イベント検出・予測や人や物のトラッキングなどを行うことにより、潜在的に重要な(動的)因子を発見する方法を研究開発します。本研究では、特にノンパラメトリックかつ動的な状態空間モデルを用いることにより、一般にその種類や個数が予め明らかではなく(“未知因子の問題”)、動的に変化すること(“動的変化の問題”)に対応する手法の研究開発を主眼としています。ここでは、映像解析に最適な特徴量等の情報表現や識別技術について検討し、特に状態空間モデルにノンパラメトリックベイズモデルを導入することにより、それぞれ未知因子、動的変化の問題に対処します。本方法を汎用的なツールとして整備することにより、医療・生物関連データの解析等にも利用できるようにしていきます。(研究代表者:佐藤真一〔情報研〕/松井知子〔統数研〕)

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[イメージデータ解析]松井知子(統計数理研究所・教授)、吉田亮(統計数理研究所・准教授)

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