地球環境データ PANSYレーダーの貴重な観測データを解析・配信する共同利用を確立します。

データベースの必要性

成果概要

国際科学会議(ICSU)の下の複数の国際組織(IUGG, SCOSTEP, SCAR, URSI, SPARC)から南極域における大型レーダー建設の必要性が勧告され、これを受けてわが国は2009(平成21)年度補正予算で南極昭和基地大型大気レーダー(PANSY, Program of the Antarctic Syowa MST/IS radar)を建設しました。同レーダーは、南極昭和基地上空の運動とプラズマパラメータを地上から高度500kmまで高精度で観測する、南極域初の大型大気レーダーで、国立極地研究所・東京大学・京都大学はじめ大学や研究機関が共同で進めるプロジェクト(代表;東京大学・佐藤薫教授)です。PANSYレーダーは、衛星などからは得られない大気の実際の状態を、高度域を含む広いエリアにわたって観測することができます。極地域からの観測でこそ得られる貴重なデータであり、気候現象をはじめ全球大気のモデル形成に大きな決め手となることからその建設が待望されたものであり、そのデータを国際的なデータベースとして整備することはわが国の重要な貢献であります。

南極昭和基地大型大気レーダー(PANSY)の主な特徴

(データベース事業・部門責任者:中村卓司〔国立極地研究所〕)

データベース事業の概要

南極昭和基地大型大気レーダー(PANSY)を活用する「PANSYデータ解析連携センター」を設置し、以下のような取り組みを推進しています。

1. PANSYレーダーの安定運用支援

2012(平成24)年度から本格運用に入ったPANSYレーダーが安定的に観測を行うために、定常的なシステム設定・観測モード作成・データ解析・不具合対応・オペレーターへの指示などを、国内から支援しています。現在、対流圏・成層圏および中間圏(極域夏季・冬季エコー)の定常観測を実施しており、安定的な観測とデータ取得を実現しています。さらに、新たな拡張観測機能についてもシステム動作確認を行っており、これらを利用した観測の早期実現に向けて、観測地と国内が連携して調査・試験等を進めています。

2. データ解析・データ配信

レーダーの稼働状況や観測データがタイムリーに確認できる、WEBベースのリアルタイムクイックルック(QL)表示システムを発展的に開発しています。これまで開発・運用してきた昭和基地内のシステムに加えて、国内における運用拠点を新たに設置。最新観測データおよび既存のデータについて、定常観測データの約1分ごとの速度・高度スペクトルを表示可能にしたほか、さらなる機能拡張にも取り組んでいます。過去の観測日時・観測モードリストの作成システムや、各サーバーの最新稼働状況の表示システム等を組み込むことにより、WEB上での簡易な操作で、システム稼働状況を総合的に把握できるようになりました。これによって、たとえば突発的な大気現象が発生した場合にも、定常観測から特殊観測へ速やかに切り替えるなど、昭和基地・国内拠点のいずれからでも迅速にコントロール可能となっています。

3. 先端観測技術の開発

従来の大型大気レーダーでは、およそ数μ〜10数μ秒かかる送受信切替のために、地上から1km程度までの低高度に観測精度の劣化する高度領域があり、境界層から自由大気に至るシームレスな研究観測が一部難しくなっていました。そこで観測研究面でのブレークスルーを目指し、最低観測高度を数100mに引き下げる手法の検討を進めました。そして多チャンネルデジタル受信系の空きチャンネルを利用した専用受信系を構成するという手法を採用し、低高度観測用 超低雑音・高感度プリアンプを開発しました。実証実験として、専用受信系1チャンネル分を試験的に作成し、第55次観測隊により昭和基地での試験観測を予定しています。さらに2015年予定の全55 群フル稼動に備えて、ハードウェアの特長を活かした多チャンネル観測法の技術開発も行っています。

データベース開発の推進体制

「PANSYデータ解析連携センター」は、東京大学と強い連携のもと、京都大学をはじめとする国内学術コミュニティが加わり、全17の大学・研究機関の連携により、共同利用・共同研究を進めています。センターの運営には、機構内外の委員からなる運営委員会を設置してレーダー観測・データ配信に関する共同利用についての議論を行います。

また多岐にわたる研究分野をカバーするために国内連携先から研究員を招聘したり、国際研究集会の開催によって国際共同研究コミュニティの確立に努めるなど、データを活用する国内外のユーザー拡大を図っています。

国内連携機関:
北海道大学、東北大学、東京大学、電気通信大学、信州大学、名古屋大学、京都大学、九州大学、琉球大学、気象研究所、国立環境研究所、海洋研究開発機構、宇宙航空研究開発機構、情報通信研究機構

関連記事

Research View 020

データ中心科学の花ひらく冒険。

[地球環境データ]佐藤薫(東京大学・教授)

「PANSY」という花の名前を冠した、南極昭和基地大型大気レーダーのプロジェクト。そもそもは2000年1月、極地研に着任してきたばかりの研究者が「南極でこんなデータが取れたら、きっと素晴らしい」と夢を語ったことから始まりました。

Research View 015

南極上空の風をアーカイブする。

[地球環境データ]中村卓司(国立極地研究所・教授)

たくさんのアンテナを並べて一括制御する技術「アクティブ・フェーズドアレイ方式」による「PANSYー南極昭和基地大型大気レーダー(Program of the Antarctic Syowa MST/IS radar)」は、2012年から本格観測を行っています。