IU-REALフロンティアコロキウム2023
『「自然現象」を読み解いていく
~「古典籍」から「最新技術」までを使って~』
これまで大学共同利用機関法人 自然科学研究機構を中心に4機構(人間文化研究機構、自然科学研究機構、高エネルギー加速器研究機構、情報・システム研究機構)で実施してきたフロンティアコロキウム。コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、2020年度から休止していたが、2024年1月18日~19日に静岡県掛川市で4年ぶりに開催された。
4機構による異分野融合・新分野創成に向けた場をつくる
今回のテーマは『「自然現象」を読み解いていく ~「古典籍」から「最新技術」までを使って~』。このテーマ設定に当たってはIU-REAL異分野間交流プログラム運営委員が各機構の特徴的な研究所を訪問し、異分野融合による研究活動を進める研究者との対話により決定された。コロキウムとは、ラテン語のコル(一緒に)とロキウム(話す)という語源を持つ単語であり、「人と人との対話を大切にする学びの場」のことを指す。
2022年3月には4つの大学共同利用機関法人ならびに総合研究大学院大学の5機関による一般社団法人大学共同利用研究教育アライアンスが設立され、まさにコロキウムが目指してきた異分野の研究者同士の繋がりにより、新たな研究創出を目指す環境が整ったとも言える。
運営委員長を務める自然科学研究機構統括URAの小泉周特任教授からは「このコロキウムには研究の卵を生み出すことを期待したい」と力強い挨拶があり、異分野融合にはCollaborationやShared Goal、Fusionといった様々な形があるが、どんな形であっても各機構を跨った研究活動ができればと話すなど、今回の開催への期待や想いが伺える。
参加した16名の研究者による1分トークでは、図書館情報学、西洋建築史、日本文学、エジプト学、映像制作、量子ビーム、プラズマ科学、遺伝学、生理学、天文学、核融合、植物学など、多様なバックグラウンドによる活動紹介が行われ、その後に各機構の代表者4名による全体ディスカッションに向けての話題提供があった。
人間文化研究機構 国文学研究資料館の山本和明 教授より、これまで携わってきた大規模学術フロンティア促進事業「日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築計画」の沿革に触れるとともに、古典籍等の書誌情報と高繊細画像の検索・利用が可能な「国書データベース」の活用により、例えば江戸時代の古典籍に残る記録から史上最大の磁気嵐が発生していたことが明らかになった事例の紹介があった。過去の自然現象の解明には古典籍に残された記録から実証されることも多く、資料解読の信頼度を高めていくことも国文学者の役割の一つと語る。山本さんは参加する皆さんと共に何か面白いことがしたいと古典籍の魅力と可能性を強くアピールした。
続いて、高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所の反保元伸 研究員より、負ミュオンを使った非破壊元素分析を紹介。負ミュオンは電子と同じ電荷を持ち、電子のおよそ200倍の質量を持つ、とても重い素粒子で、電子と比べ数100倍高いエネルギーの蛍光X線を放出する特徴を活かし、物質の浅いところからより深いところまで薄いシート状に段階的に打ち込むこみ、打ち込み箇所から発生したX線を測定、元素分析ができる。経年劣化の影響で表層部の化学組成が変化していたとしても、劣化のない深層部の製作当時の材料組成を分析出来ると負ミュオンの強みを説明。生命体への応用は可能かという参加者からの質問に対し、ビームの大きさがセンチオーダーであるため対象物が比較的大きければ可能であり、μmオーダーに集束した負ミュオン顕微鏡の実現に向けて研究中と答えた。
最も古くからある学問であり、人類の文明と共に繁栄してきたのが天文学と話すのは自然科学研究機構 共創戦略統括本部の関口和寬 特任教授。
古代の天文学は暦の作成を通じて農耕との関係が深く、種まきや収穫時期、例えばエジプトであればナイル川の氾濫時期の予測など、まさに人間の生きる知恵とされてきた。一方で、気候変化や洪水の予測を的中させることで王や支配者たちの権威付けにも利用されてきたと話す。
天文学は最初の数理科学であり、測定機器を使った最初の科学と語る。現在では高解像度の大型地上望遠鏡による観測だけでなく、宇宙からの観測も行われ、光だけでなく電波やX線、ニュートリノ、重力波など、宇宙からのありとあらゆる情報をデータ化し、それらすべてを使った研究であり、今日の天文学が極めてスケールが広いことを強調した。
最後に情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所の藤戸尚子 特任助教より、現在進める研究活動に欠かせない古代ゲノムについて紹介があった。データベースには集積される一人一人が生きた時代のスナップショットが登録されているとし、これまでに約10,000人近くの情報が集まるなど、急ピッチに研究環境が整っていると話す。藤戸さんはヒトの抗ウイルス遺伝子の進化研究から過去の感染爆発を考察する研究活動を進めており、パンデミックによる進化イベントが検出された時代に何が起きていたか、気候変動や植生、文献に残る記録などから手掛かりを探りたいと訴え、参加者からはマラリアと鎌状赤血球症との関係性、ペストや天然痘などにも話題が及んだ。
全体ディスカッションでは各機構からの研究事例を踏まえ、自然現象の解析の試みについて、16名の多様な参加者による積極的な議論が展開された。それぞれの専門分野からのコメントだけでなく、様々な観点で共通する課題を俯瞰することができた。今回は共同研究の卵が生まれる段階までには至らなかったが、参加者からは今回限りのものとはせずに引き続き交流し、より具体的な研究についてディスカッションの場を持ちたいとの声が多くあがるなど、コロキウムへの期待が大きいことが確認された。
(文・写真:本部広報室 樋口 徹 公開日:2024/3/13)