Science Report 024

オーロラは語りかける。06

オーロラの科学は何を教えてくれるのか?

オーロラの研究は、より広い研究分野である「地球惑星科学」の一部分にあたる。地球惑星科学には、観測や解析によって太陽や地球を調べるだけではなく、「惑星がどうしてできるのか?」「生命はどこから来たのか?」といった問いも含まれるのだそうだ。ビッグデータ時代の莫大な観測データを介して、現在この分野では、地球周辺の宇宙空間である「ジオスペース」と太陽、地上近くの対流圏や成層圏の大気と、50キロメートル以上の超高層大気といった、従来は別々の専門分野だった学問間の連携がどんどん密になっているという。さらには「大気と海洋、そして地殻の研究との関連もどんどん深くなっていて、最終的には一体化していく」と、大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 藤井良一機構長は展望する。地球惑星科学という壮大な科学から、これから何が解明されようとしているのだろうか?
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藤井良一 機構長(情報・システム研究機構)

答える人:藤井良一 機構長(情報・システム研究機構)

ふじい・りょういち。大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 機構長。1974年東京大学理学部卒、1977年国立極地研究所助手。1981年理学博士号取得(東京大学)。名古屋大学教授、同太陽地球環境研究所長、同副総長(2009〜2015年)等を経て、2016年情報・システム研究機構理事、2017年より現職。専門は地球惑星科学。中でもオーロラが生起する磁気圏・電離圏に注目し、国際協力によって建設・運用されているEISCATレーダーの日本参加に尽力。2003〜2004年EISCAT科学協会議長、2015〜2016年文部科学省  科学技術・学術審議会海洋開発分科会北極研究戦略委員会主査、2015年より内閣府 宇宙政策委員会宇宙産業・科学技術基盤部会宇宙科学・探査小委員会委員他、委員歴多数。


地球惑星科学を捉えるための2つの観点

地球惑星科学には大きく2つの課題がある。1つは「われわれ人類が生存している地球をどう捉えるか?」、そしてその外側を含めた「太陽系ってどんなところだろう?」という問いに答えることだ。「宇宙、なかでも地球に近いジオスペースが、人類がたいへん活躍する重要な場になってきています。気象衛星、通信衛星、GPS(全地球測位システム)などの社会インフラが非常にたくさん宇宙に進出していて、もはや宇宙なしでは現代社会の活動レベルは保てません」と、藤井良一機構長は言う。近年特に、インフラの維持・保全といった社会的重要性が増していることから「宇宙という環境を予測する宇宙天気のような研究が進められている」のだという。

もう1つの重要な観点は「宇宙の中の地球」である。「例えば、光で画像を捉えたり、電波でエネルギーを測ったりして太陽系を観測すると、実は宇宙の他の場所でもよく似た現象が広く見られるということがあります。もしかしたらそれらの基本原理は同じかもしれませんね? しかし本当に理解するには、実際にその場所へ行くなどして、もっと精密に観測しなければなりません。人類が行ける場所となると、やはり地球近傍で確かめるしかない。実際、2016年に打ち上げられたジオスペース探査衛星「あらせ」は、「ヴァン・アレン帯」という現場へ行って、プラズマ波動と高エネルギー粒子が相互作用する様子を世界で初めて見ようとしています」。

8つの惑星が教えてくれる太陽系の多様性と普遍性

この2つの観点をつなぐのが、多様性と普遍性という地球惑星科学のキーワードだ。太陽系の惑星はそれぞれ大きさが違い、また例えば金星にはほとんど磁場がなく、水星には大気がない。ちなみに、大規模なオーロラが見られるのは、その両方があって太陽風が吹く木星、土星、地球だけだ。「8つの惑星の中にこんなに大事な要素の組み合わせが4通り揃っていて、しかもどれもわれわれの衛星が行くことができる。地球の周りの天体は、たいへん多様性に富んだラインナップなんですね」。

「一方で、それらを貫く共通の物理過程や、1つのシナリオのようなものがおそらくあって、逆に多様性の中から普遍性を抽出できる可能性がある。太陽地球系で何らかの現象の過程が解明できたら、それを宇宙の他の銀河系や、もしかすると地上で行う核融合などの現象にも当てはまる可能性がある──この意味でもすごく重要な科学だと思います」と、藤井機構長は言う。

地球惑星科学では一般に、主に電磁気学と運動・流体力学の方程式を用いて、速度、質量、電場、磁場といった物理量の空間分布と時間変化を導き、さまざまな現象の解明を目指す。しかし自然の複雑さを前に、このような第一原理や理論だけでは到底解くことはできないため、これに観測に基づくシミュレーション、モデリングを加えた三位一体で、複雑な科学への挑戦が進められている。「オーロラ、毎晩出ますよ……なんて言い方をすると、いかにも毎日繰り返すようだけれども、自然というのはまったく同じ現象は2度と起こらない。単純化することなくよく知るということと、矛盾するようだけどもその中からいかに共通する部分を抜き出すかを考えなければいけません」。

写真右端は、役目を終えたフィルム式の全方位カメラ。第23次、32次南極地域観測隊越冬隊員を務めた藤井機構長は、「昔、南極で、これを調整しながら一晩中オーロラの記録をつけていたものです」と振り返る。現在では、機械学習を用いて、大量の画像から研究対象となる現象を取り出す手法が広がりつつある。

伝統的な科学の手法とAIなどの新しい科学の交点

そもそも、地球惑星科学が対象とする宇宙の環境を支配し、そのほぼすべてのエネルギー源であるのは、もちろん太陽である。その表面の磁場の空間分布と時間変動は詳細に解明されており、エネルギー量も計算されていて「恒星の中で最も厳密に物理量がわかっている天体」であるという。しかしながら太陽が持つ短期、長期の周期的な変動と、われわれの生活圏への影響については「相関があることは確認されているものの、詳しいメカニズムは明らかにされていない」。このような中での1つのチャレンジとして「最近、年輪の解析などから、数1,000年の太陽の長期周期変動と地球の気候の関係の研究が進んできています。このような研究から太陽のダイナモ(磁場生成)が理解できると、これから地球は氷河期へ行くのか、あるいは温暖化するのか? といった将来の予測も可能になるかもしれません。それは、人類にとって大きな違いではないでしょうか」。

藤井機構長によれば、ここで科学が取り得る方法は大きく2つある。「1つは太陽ダイナモやフレア等の太陽の運動、太陽・地球系におけるエネルギー変換・伝播、プラズマの運動などの物理過程を、理論や実際のデータから明らかにして、メカニズムを理解しようという、科学本来のやり方です。もう1つは、AIの急速な発達などを背景に、主に機械学習を用いて大量に入手可能になったデータを機械に学習させ、現実の予測の精度を高めていくという方向性です」。

「私はどうしても基本的な原理を知りたいという習癖がある」と藤井機構長は笑うが、機械学習は急速に多くの成果を挙げており「これだけ社会に影響を与える分野なので、科学としてベスト・プラクティスで予想しなさいという要請に応えることも重要」と指摘する。「2つの方法が連携することが大事であり、それによってデータサイエンスの進展が大いに期待されます」。データサイエンスとは、複雑な現象を大量のデータから解明しようとする、近年の科学の大きな潮流だ。

オープンデータ、オープンサイエンスの要請

複雑な自然を相手にする地球惑星科学には、データの獲得と、データサイエンスの発展が欠かせない。たとえば、もし電離圏の中の大気の密度、温度、動きなどを立体的かつ高解像度に測定したデータが得られれば、ジオスペースやオーロラについての研究は大いに進展する──そこで藤井機構長は1970年代から「EISCAT(欧州非干渉散乱レーダー)」という国際プロジェクトの日本参加に、先駆的に尽力してきた。

その後1996年からEISCAT科学協会に日本の代表機関として国立極地研究所が参加し、現在は、北欧3か所にレーダーを設置して超高層・中層(高さ60〜2,000km)大気の密度、温度、動きなどを3次元で高解像度に測定する「EISCAT_3D(次世代欧州非干渉散乱レーダー)」の計画が進められている。「フェーズドアレイという日本の貢献が大きい方式を採用していて、上空へ打つビームを超高速に振ることによって、対象とする領域の空間分布と時間変化を全部捉えられる、世界最先端の装置です。電離圏と磁気圏が複雑に相互作用している領域が観測対象に含まれているのも、非常に興味深いところです。もちろん非常に高解像度なので、小さいものまで鮮明に捉えることができ、たとえば隕石が地球へ向かって落ちてくる軌跡などもトレースできます」。EISCAT_3Dは2021年からフル稼動を開始する予定だ。

またデータサイエンスの発展を促進するものとして、近年活発化するオープンデータやオープンサイエンスの動きがある。「データ整備だけでなく、その解析を含めたデータ利活用が新しいフェーズに入りつつある。情報・システム研究機構を構成する研究所には、極域科学を担う国立極地研究所と、シミュレーションとデータを有効に組み合わせる「データ融合」を研究する統計数理研究所があり、大きなポテンシャルを感じる」と藤井機構長。「大学共同利用機関として、データ集積・公開・利用促進、大学等との連携・支援に貢献したいと考えています」。

オーロラシアター、全方位カメラ、日本南極観測隊雪上車の展示は、すべて国立極地研究所 南極・北極科学館(東京都立川市)にて撮影。

(聞き手:池谷瑠絵 写真:河野俊之 公開日:2019/1/10)

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