Science Report 022

オーロラは語りかける。04

「オーロラ爆発」を再現できるか?

突発的に大規模なオーロラが発生する現象があり「オーロラ爆発」と呼ばれている。多くのオーロラと同じように南北の極域でリング状に広がるオーロラオーバルに沿って高度およそ100〜400kmに発生するが、「爆発」と名にあるように全天に広がって目まぐるしく変化するスケールの大きさが特徴だ。このような現象の背後に、いったいどんな地球磁気圏のダイナミクスがあるのか──科学者たちは長らくこの疑問を統一的に説明しようとしてきた。今回はこれを数値シミュレーションで解明する研究を紹介しよう。
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海老原祐輔 准教授(京都大学)

答える人:海老原祐輔 准教授(京都大学)

えびはら・ゆうすけ。京都大学生存圏研究所 准教授。1999 年総合研究大学院大学博士後期課程修了後、名古屋大学高等研究院特任講師等を経て、 2011年より現職。専門は宇宙空間物理学。地磁気が数日間乱れる磁気嵐や、突発的に大規模なオーロラが発生するサブストームの研究で知られる。2015年には九州大学田中高史名誉教授が開発したシミュレーションを用いてオーロラが急激に明るく光り出す「オーロラ爆発」現象を合理的に説明できるモデルを提唱した。


磁気圏のメカニズムをシミュレーションで解く

オーロラは、宇宙からやってくる粒子(主に電子)が地球の超高層大気に衝突して発生する。オーロラの発生には3つの要因が欠かせない。エネルギー源である太陽、発光体としての地球の超高層大気、そしてオーロラの種となる電子を捕まえる地磁気である。地磁気は目に見えないが、太陽の影響下にある地球を取り巻く環境を考える上でとても重要だ。

「地球の磁力が及ぶエリア、つまり磁気圏は、たいへん広大なんですね。オーロラ爆発のときに磁気圏がどうなっているか、人工衛星を打ち上げて測定が行われていますが、太平洋に舟を浮かべて測るがごとしで、1点の状態だけわかっても、磁気圏全体がどうなっているのかはわからない。最近は複数の衛星から同時観測も行われていますが、それでもなかなか把握できません。そこで20〜30年前から、数値シミュレーションによってスーパーコンピュータでこの問題を解いていこうという試みが始まりました」と、京都大学の海老原祐輔准教授は言う。

海老原准教授が駆使するシミュレーションの作者である九州大学田中高史名誉教授は、1983〜4年南極地域観測隊に参加して昭和基地で越冬した際、オーロラ爆発を観察して感銘を受け、これをコンピュータの中に再現しようと思い立ったところから開発が始まったという。田中名誉教授のシミュレーションは「オーロラ爆発の特徴をよく再現している」と海老原准教授。1990年代半ばに開発され、現在もライフワークとして拡張し続けられているのだそうだ。

左は人工衛星が観測したオーロラ爆発。リング状のオーロラオーバルの一部にひときわ明るい弧(画像手前)が光り始めて、ぼわっと燃え広がるように東西の方向に伝わっていく。右はシミュレーション。観測で捉えられたオーロラ爆発の特徴をうまく再現することができる。

スウェーデンで「オーロラ爆発」を体験

海老原准教授は1999~2001年にスウェーデン最北の都市「キルナ」にある研究所に博士研究員として勤務していた。当時は主に磁気嵐の研究を行っていたが、そこで何度もオーロラ爆発を目の当たりにしたことがサブストームに強い関心を寄せる大きなきっかけになった。「まず夜空の1点で突然光が輝き出し、瞬く間に全天にオーロラが明るく広がりました。しかも細かいカーテン状の光が縦横無尽に、まったく不規則に走り抜けるというもので、どうなっているのかまったく想像がつかない……。自然はなんて凄いんだろうという畏敬の念を抱かざるを得ませんでした」。

オーロラ爆発がおこると極域の地磁気が数時間激しく乱れる。不規則で激しい地磁気の乱れには磁気嵐とサブストームの2種類があることが知られており、磁気嵐は全世界的に地磁気が減少する現象だ。いったん発生すると現象は数日間続き、通常は極域でしか見ることができないオーロラが中・低緯度地域にも現れる。この嵐(ストーム)に対して、イギリスの地球物理学者でオーロラの解明にも功績のあったシドニー・チャップマン(1888ー1970)が提唱したのがサブストームである。磁気嵐が起こるときには、極域で小さな地磁気の変動がいくつも断続的に現れるため、このような「サブ」ストームがたくさん集まって磁気嵐が起こると考えられたのである。しかしサブストームがなくても磁気嵐は発達することなどが知られるようになり、現在、その関連は未解決の問題となっている。磁気嵐との大きな違いは、サブストームは極域を中心に起こり、数時間しか続かない点だ。

「オーロラ爆発は、衛星や地上の通信・電力網などを破壊するなどの障害を引き起こすことが知られています。しかしサブストームは突発現象なので、いつどこで起こるかわかりません。予測が難しいという点で地震によく似ています。サブストームがどのような過程で起こるかは、磁気圏の大変動の解明という点からも、たいへん興味深いですね」。海老原准教授は2010年ごろまで主に磁気嵐の研究を行ってきた。「磁気嵐は太陽風(太陽から吹くプラズマの風)の状態が決まれば、ある程度予測ができます。ところがサブストームは予測が難しい上に一旦起こると磁気圏の状態が一変します。そこが面白い。そして何よりオーロラ爆発は美しい。サブストームには沢山の魅力があります」。

再現してわかったオーロラ発電のしくみ

田中高史名誉教授のシミュレーションは、オーロラ爆発のひと続きの流れをきれいに再現することができる。「地球の南北の極から磁力線が延びており、一方から太陽風に見立てた電気を帯びた粒子(プラズマ)を、シミュレーションでぶつけてみます。すると太陽の側にある磁力線が地球のほうへ押しつけられ、磁力線が大きく変形していきます。磁力線はどんどんと太陽と反対の方向へ吹き流されるように延びていき、長く尾を引くようなかたちになって、地球の磁気圏が出来上がります」。

太陽の反対側の引き延ばされた空間を「尾部」と呼ぶが、ここにプラズマシートと呼ばれる電気を帯びた粒子が蓄積されている。磁力線には自ら縮もうとする性質があるため、この尾部で隣り合った磁力線が相互に結び合う「リコネクション」という現象が起こると、プラズマとともに地球方向へ押し戻っていく。すると地球近くでプラズマの圧力が高まり、比較的高緯度で磁力線に沿って流れる強い電流「沿磁力線電流」が作られる。これが地表近くの電離層に接続すると、オーロラ爆発が起こるのである。

一連の流れを再現するこのシミュレーションは、地球の磁気圏のダイナミクスを解明する大きな一歩となった。「オーロラ爆発の時には3箇所で発電が起こっていることがシミュレーションでわかったんです」と海老原准教授は言う。「火力発電所では石油や天然ガスを燃やして水蒸気を作り、蒸気が流れる力でタービンを回して発電します。それと同じようにプラズマの粒子を動かすと発電することができます。宇宙ではこうした発電機が順に作動していくのですが、磁気リコネクションの結果として生じた地球近くの発電機が最終的に強い沿磁力線電流を作り、それが電離層と接続すると地球に向かって電子が降りはじめ、オーロラ爆発が始まるのです。電子と電流は逆向きに流れるため、明るいオーロラが出ているところでは上空へ向かって強い沿磁力線電流が流れていることになります」。

この壮大な変動には、さらに続きがある。「明るいオーロラの周囲では電離層を流れる電流の流れ方が変わるので、ここでも発電作用が起こり、西の方向に燃え広がるような明るいオーロラが生じると考えています。つまり宇宙だけでなく地球もオーロラ爆発に積極的に関わっていて、お互いが協調してオーロラ爆発という壮麗な現象を引き起こしている──そんなことをシミュレーションは教えてくれました」。

海老原准教授が指さしている青い球は地球を見立てたもの。画面左奥から太陽風が吹いてくる想定のシミュレーションで、画面右手前に「尾部」が広がり、リコネクションを起こしているところ。

磁気圏の全容を理解することへ向けて

ところで、シミュレーションは目に見えるかたちで答えを示してくれるが、シミュレーションの中で何が起きているのかについては、人間が分かりやすい形では教えてくれない。シミュレーションの結果を解析するにあたり、海老原准教授は「定説とされていたメカニズムを検証したがことごとく失敗した」と振り返る。そこで、従来のように尾部にあるプラズマシートを2次元的に見るのでなく、宇宙空間を広く3次元的に俯瞰したところ、オーロラ嵐の理解につながった。ちなみに脈動オーロラ(前回参照)は、オーロラ爆発後によく現れる現象で、「地球の近くの磁気圏に溜まったプラズマのエネルギーが何らかの原因により不安定となってぱらぱらと地球に落ちてきたもの」なのだそうだ。

「しかしまだオーロラ爆発の細かい構造は、シミュレーションでは再現できていないのです」と海老原准教授は言う。特にオーロラ爆発の初動に現れる複数の明るく小さな構造が再現されないのだそうだ。「シミュレーションの精度を上げていくとともに、シミュレーションの結果が何を意味しているのかを詳細に検証し、観測と比較しながら宇宙空間で起きている出来事についてその理解を深めていく必要があります」。

京都大学宇治キャンパスにて。

(聞き手:池谷瑠絵 写真:河野俊之 公開日:2018/11/12)

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