Science Report 021

オーロラは語りかける。03

太陽活動は地球にどう影響する?

京都には、約1,200年分もの桜の開花日を記録した古日記が残されているのだそうだ。桜は気温等の条件が揃わなければ開花しないため、開花日の記録は気温の記録と見ることもできる。このようにして人々が残した観測記録を調べたり、年輪、氷床、地層等の物質を分析したりすることによって、長い間に地球がどう変動してきたかの証拠を集めることができる。加えて、年輪や氷床の成分からは、太陽の活動についての手がかりも得られる。いくつかの周期を持った太陽の変動が、オーロラや、ジオスペースを含む私たちの生活圏にどんな影響を与えているのか──今、少しずつ明らかになってきているという。
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宮原ひろ子 准教授(武蔵野美術大学)

答える人:宮原ひろ子 准教授(武蔵野美術大学)

みやはら・ひろこ。武蔵野美術大学准教授。2005年名古屋大学 理学研究科 素粒子宇宙物理学専攻 博士後期課程修了、博士(理学)(名古屋大学)。太陽圏環境や銀河宇宙線量の長期変動の物理メカニズムの解明や、宇宙環境の変化が地球の気候に及ぼす影響などを専門とする。特に屋久杉の年輪や氷床コア等に基づく、太陽活動の長期的な変動の難しい解析で知られる。2012年、文部科学大臣表彰 若手科学者賞、2015年、第31回講談社科学出版賞受賞。


屋久杉の年輪の中にある炭素14を測る

屋久島の標高500メートル以上の地に自生する屋久杉は、樹齢1000年を越えるものもあることが知られている。切り株に現れる年輪は、その縞模様から樹木の成長の様子がわかるだけでなく、そこに含まれる放射性同位体「炭素14」を測ることによって、太陽活動のサイクルを知る大きな手掛かりとなる。

武蔵野美術大学の宮原ひろ子准教授らは、樹齢約2000年、直径約2メートルの屋久杉から炭素14を解析し、2008年、1100年前頃の太陽活動の復元に成功した。これにより、10世紀から14世紀頃にかけて気候が温暖であったとされる「中世温暖期」に、実際に太陽活動が活発だったことがわかったという。「年輪からは、太陽の活動が変わったときにどれくらい気温に影響がでるのかといったことや、降水量への影響なども見えてきます」と宮原准教授は言う。

続いて2018年には、弘前市に残る『弘前藩庁日記』と、八王子市に残る『石川日記』という江戸時代の2つの文献から雷の発生日を調べ、太陽活動が活発化するほど、日本の夏の雷に、ある周期性があらわれてくることを明らかにした。太陽活動には約27日のサイクルがあるが、文献からもその周期が読み取れたのである。「『石川日記』は農家の日記なので、農作業、作物、天候などについて書かれています。ただし詳しく書かかれている時期もあれば、代替わりして「今日は雨」ぐらいしか書かれなくなったりもします(笑)。一方『弘前藩庁日記』は公文書なので、何時に雷が起こったかといった具体的な記録が約200年分まとまっており、1日の時間分解能を持つデータが取れる非常に貴重な文献でした。寒冷な地であることもあり、天候にはものすごく敏感だったのだろうと推察されます」と宮原准教授は言う。「大気の上層で光るオーロラには、27日周期が見られるということが知られていました。今回の発見は、大気のさらに奥深いところでも、そういった27日周期の影響が見える、というものです」。

屋久杉の年輪 撮影:宮原ひろ子

太陽活動と地球の気象

「太陽活動は間違いなく地球に影響を与えているのですが、どのように影響しているのかを突き詰めるのは難しい」と宮原准教授は言う。太陽活動の指標として太陽黒点数が知られているが、黒点が増えても、地上の気温にはほとんど影響しないとする見方が長く続いていた。「1980年代に、人工衛星で太陽の日射量を詳しく調べる観測が行われたのですが、気温を変えるには変動が小さすぎるということが判明した経緯があります」。しかし、日射量の変動が小さいにもかかわらず、太陽活動と地球の気候が非常に強い相関を示しているという画期的な論文が2001年に発表され、それまでの認識が大きく方向転換したという。

「今までは地球で起こったことは、地球の中だけで解こうとしてきたと思うんです。何かが変化すれば、大きな変化が生まれることもある。例えば氷が融ければ海洋循環が弱まって、そして大気がこうなって……と。しかし、その一番最初の変化がなぜ起こったのか、というところが解けていない例も多い。そこで、もうちょっと宇宙から見たら、源から理解できるのではないか、と考えたわけです」。

周期に注目して太陽活動の影響を追う

宮原准教授の研究は、太陽の持つ周期に注目する。1つはまず太陽の自転周期である約27日、次に見なければいけない周期は、太陽の中で物質がゆっくり循環することで生まれる11年周期であるという。「気体はすぐ混ざってしまうので、普通に考えると長期的な変動を生み出すのは困難であるようにも思うのですが、太陽の活動には1,000年周期、2,000年周期といったものもあるのです」。

太陽活動が地球にもたらすものは日射だけではなく、紫外線や宇宙線などもある。「どれもみんな太陽活動の変動と同期して変化しています。日射が減れば、紫外線が減り、一方宇宙線は太陽活動が弱まることによって強まる逆相関の関係にあるので、逆に増えます。時間変化のパターンがとても似ているので、それぞれの影響は見分けがつきにくい」。しかしこれらをグラフにした時に見えてくる、非常に微細なところに、宮原准教授は手掛かりをつかむ。「27日周期などのいくつかの周期では、日射・紫外線と宇宙線との変動が微妙に違うんですよ」。日射や紫外線の変動は黒点のサイズと位置によって決まるが、宇宙線の変動は、黒点から宇宙空間に放出された磁場の影響として現れる。「このメカニズムの違いが、変動のパターンにわずかな違いを生み出す。どの要因がどこにどう効いているかをきれいに分離できる可能性があるんです」。

しかもこの27日というスパンの短さには、さらなるメリットもある。「例えば数百年といった長いスパンで太陽の気候への影響を見ても、影響し終わった最終的な姿しか見えなくて、影響していったプロセスを追うことはできません。でも27日なら、まず地球のどこが影響を受けて、それがどう伝搬していくかというプロセスを追える可能性があるんです」。今や世界各地の毎日の雲や気象のデータや人工衛星のデータなどが膨大に手に入るため、27日周期がどう表れて、どう伝搬したかを全球的に見ることもできるわけだ。

宇宙天気と地上の天気予報をつなぐ

これまでの研究を通じて、太陽活動と地球の気候との関係性が「だいぶ見えてきた」と宮原准教授は言う。「太陽活動が長期的に低下しても、地上の気温は全体としては0.5〜0.6度しか下がらないと言われているのですが、データが集まってくると、影響が大きい地域と影響がほとんどない地域の差がとても大きいことが見えてきます。このうち日本は影響が大きく現れる地域であり、太陽活動が低下すると、最大約2.5度も気温が下がるんです。そして、日本ではこのとき雨も増えるんです。これが何十年も続くとなると、農業をはじめ社会的な影響もかなり大きくなると考えられます」。

ところで、太陽活動や地磁気の変動などによって起こる宇宙環境の変動を「宇宙天気」という。既に、日本を含む世界でこの予報が開始されており、人工衛星や通信機器等の障害を軽減することなどに役立てられているが、「将来的には、宇宙天気予報と地上の天気予報をつなげたい」と宮原准教授は言う。太陽表面での活動の予測や、それらの地球への波及の予測といったものを、さらに、地球の大気のモデルに入力し、気象を予測する。「今提供されている天気予報は10日先ぐらいまでが限度となっているが、1カ月以上先まで伸ばせる可能性もあるかもしれない」という。

写真は、東京都小平市にある武蔵野美術大学鷹の台キャンパス。大学では美術を志し、日々制作に打ち込む学生たちを対象に教鞭をとる。「アートが身近にある環境は、研究にもよい刺激になる」と宮原准教授は言う。

(聞き手:池谷瑠絵 特記外の写真:飯島雄二 公開日:2018/10/10)

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