Science Report 046

異なる環境で研究活動を深化させ、次へと繋げる
-ROIS研究者交流促進プログラムのご紹介-

2010年度から取り組む「研究者交流促進プログラム」では、これまで沢山の研究者が所属大学を一定期間離れ、当機構の研究所にて研究活動に従事することを積極的に後押ししてきた。所属大学とは異なる地での研究活動について、その取り組みや本プログラムへの率直な想いを八木沢准教授に伺った。

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八木沢 芙美 准教授(琉球大学)

答える人:八木沢 芙美 准教授(琉球大学)

やぎさわ・ふみ。琉球大学研究基盤統括センター准教授。2001年東京大学理学部卒業。2004年度日本学術振興会特別研究員(DC2)。2006年大学院理学研究科生物科学専攻博士課程修了(理学)。2007年立教大学理学部、2011年カリフォルニア大学サンディエゴ校博士研究員、2015年より琉球大学に着任。現在に至る。


自分の専門研究を深めるため遺伝研に

「サバティカル制度を使っての国立遺伝学研究所での研究活動は、毎日充実したものでした。自分が専門とする研究活動を深めるための研究環境や設備が充実しており、研究に全ての時間を費やせました」と話すのは、2022年10月より国立遺伝学研究所 共生細胞進化研究室で活動した琉球大学准教授の八木沢芙美さんだ。

情報・システム研究機構の支援事業「研究者交流促進プログラム」の採択を受け、琉球大学でのサバティカル制度を活用して、2023年9月末までの1年間を国立遺伝学研究研(以下、遺伝研)がある静岡県三島市で過ごした。

「都内への交通アクセスが良い環境ですが、ここ遺伝研で寝ても覚めても研究の毎日でした」と八木沢さんは振り返る。宿舎も研究所キャンパス内にあり、八木沢さんの研究活動を支えるためにも恵まれた環境といえる。

研究対象となる単細胞紅藻の研究に最適な環境

ヒトを含めて、地球上の動物や植物は真核細胞から出来ている。その真核細胞が持つ複数の細胞小器官はそれぞれ固有の機能を担い、その異常はヒトでは様々な病気と関連が深く、植物では発達障害などの原因となる。八木沢さんは細胞小器官間のインタラクションや増殖機構などの解明を進めるため、シゾンと呼ばれる単細胞紅藻(Cyanidioschyzon merolae)を研究対象としてきたが、ここではシゾンに近縁なガルデリア(Galdieria partita)を用いた。

「ガルデリアはシゾンと同様に高温酸性の特殊な環境で生育する一方で、シゾンより幅広い環境に適応することができ、近年ゲノム解読や形質転換系といったツールの開発がなされています。生物は栄養の枯渇など細胞が増殖・成長できない環境下においても、長期間、生存することがありますが、光合成真核生物ではこのような条件下における生存戦略はほとんど分かっておらず、ガルデリアをモデルとして解析をしていました。ここ共生細胞進化研究室では、ガルデリアの本来の生育温度下で観察できる顕微鏡システムや、生育に適した培養設備が十分利用できるなど、最適な研究環境が整っていたことが何よりの魅力です」共生細胞進化研究室はモデル生物から野外採取した種に至るまで、多種多様な真核単細胞生物を研究材料としており、それらに関わる研究仲間との議論や野外採取などで多くの刺激を受けたと話す。

研究活動に打ち込めた1年間に感謝、10月には琉球大学へ

琉球大学では7年間の勤務経験を経てサバティカルを取得することができる。「ここ遺伝研は研究活動に集中できる環境だったと実感しています。自然豊かで緑が多く、有意義な1年でした」。サバティカルとして与えられた期間は1年間ということもあり、専門とする研究活動を深めるためにも、安心して研究活動に取り組める環境を考えていたところ、相談していた共生細胞進化研究室教授の宮城島さんより研究者交流促進プログラムの紹介を受けたと八木沢さんは話す。「サバティカルへの支援経費が措置されるか以上に、活動したいと考える研究室が如何に魅力的であるかが何より重要。琉球大学での代替教員の確保などに使える予算も情報・システム研究機構から措置され、様々な面での条件が一致した」とし、サバティカル終了後も宮城島さんとは研究活動を継続しながら、この1年間の活動を踏まえ論文を纏めたいとしている。

(文・写真:本部広報室 樋口 徹 公開日:2023/10/26)


研究者交流促進プログラムとは

大学共同利用機関の使命である大学との連携強化、なかでも研究人材の交流促進ならびに活性化させる取組みとして、2010年度から実施している当機構独自の支援事業のひとつ。大学に所属する研究者が当機構の研究所等で研究活動に従事することを希望する場合、公募・選考を経て、3ヶ月から1年間受け入れる。採択後、研究者の職位や経験年数に応じた「交流促進経費」を当機構から所属大学に直接支給。これにより、最先端の研究の推進や次世代を担う研究者の育成に役立てようとするもの。

本プログラムのメリット

  • 所属大学のサバティカル制度等を有効活用
  • 不在期間に必要な経費支援(当該研究者の給与、代替教員等の雇用経費等)
  • 整備された研究環境とスタッフの下で研究活動に従事
  • 受け入れ期間中の住居手当を支給(上限額あり)

申請対象

  • 応募時点で所属大学に1年以上在籍し給与を得ている常勤研究者
  • 本プログラムに参加終了後も所属大学に継続在籍する者
  • 交流開始時期は募集年度の翌年度以降
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